Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『楽隊のうさぎ』 中沢けい を読んで

 いらっしゃいませ。


 どうしたんですか?・・・へえ、コーヒーカップを持ってきたんですか?

ロイヤルコペンハーゲン、ですね?ブルーが美しいですね。

へえ。それにコーヒーをねえ。


でもうちはそこの蛇口から水を入れてもらうしかないんですけどね。



 彼は以前読んだ中沢けい氏の『楽隊のうさぎ』という本について書きたいらしい。これもかなり前に読んだ本だな。



「半年以上、一年未満。結構前に読んでるね」



そもそもなぜこの本を読もうと思った?


「『部活』とか『青春』とか『音楽』とかってキーワードに比較的弱いかも知れない。しかも物語の舞台が中学校の吹奏楽部ってことなので、感情移入しやすいかと思って」



キミは中学・高校と吹奏楽部だったな。



で、内容は?



「学校にいる時間をなるべく短くしたい、引っ込み思案の中学生・克久は、入学後、ブラスバンドに入部する。先輩や友人、教師に囲まれ、全国大会を目指す毎日。少年期の多感な時期に、戸惑いながらも音楽に夢中になる・・・ 」



というようなことが裏表紙に書かれていたわけだな。因みに上記の文章はアマゾンのBOOK紹介より抜粋させていただいた。楽して内容を紹介したわけだ。


「まあ、端的に書くと上記のようになるが・・・どうもね・・・」



ほう、あまり肯定的な意見を持っていないようだな。



「まず、主人公が通い始める中学が、実は吹奏楽の全国大会の常連校ってのが既に引っかかった」



良いんじゃないの。その方がストーリー進行し易いっぽいし。



「その割には物語の冒頭から一年生の部員が足りないので新入生を勧誘するところから始まる。」



中学の部活動ならありがちな事だと思うが?



「これがどこにでもある普通の中学校ならそうだろうが、この中学の吹奏楽部は『全国大会の常連』なんだ。これが何を意味するかというと、喩えて言うなら甲子園常連の高校の野球部が部員が少なく入部希望者も少ないっていうあり得ない状態からのスタートということ!」



まあ全国レベルの部活なら、その筋では有名になっていて入部希望者も多そうなもんだ。
人数の多い吹奏楽部で良くあるのが、コンクールに3年生だけの1軍、さらに2年生と一部の1年生選抜の2軍、両方でエントリーしてくるパターン。



「その全国レベルの部活が学校内であまり大きく取り上げられていない」



全国大会へ行くくらいなら、学校内に懸垂幕とか横断幕とかでかでかと貼りそうなもんだがな。学内の部活でもかなりマイナーな感じで書かれている。


普門館の常連だよ?国立の常連のサッカー部とか、甲子園常連の野球部とか、そのくらいのレベルで考えなきゃ。まあ今あげたのがどちらも高校の大会だけど」



街でもちょっと評判とかにならないのかな。何だか小説の中では、(楽器代とかに)金が掛かる、(早朝や夕方に)うるさい、部活の拘束時間ばかりが長く、夏休みも部活漬けで勉強にも精が出せずと保護者からの評判も芳しくないようだな。全国レベルなのに!



「たしかにそうなんだけど、普門館へ行くレベルになったら学校もかなり協力的になるだろうし保護者会とかPTAとかってやつにも協力を求めるレベルだと思うのだが。これは全国レベルに対して夢を見すぎているのか?」




高校レベルになると全国常連校へ行くために越境入学とかするもんな。普門館へ行くってのはそのくらいすごいことなんだ。

「まず、そこにリアリティがない・・・」



なるほど。で、全くの未経験で入部した主人公が、パーカッションに配属され、基礎のスティックの持ち方からおぼえて、夏のコンクールに向けて練習を始めると・・・。


「ここにもリアリティが無い・・・」


なんと。


「たしか主人公は初めてのコンクールでスネア(わかりやすく言うと小太鼓ね)を担当することになる」


ふむ。



「スネアはティンパニと並んでパーカッションの華がた。コンクール全国レベルの学校のスネアを初心者が担当するのは不可能!おそらく夏までにまともに二つ打ちも出来てない状態のはずだ。つまりはまともにロールすら出来ない。そもそも譜面が読めているのかが怪しい」




一応文中では前年度の成績が優秀だったので地区大会はシード扱いで楽曲披露だけって事だけどね。



「それでもあり得ないね。全くの初心者が、いくらパートの人数が足りないと言ってもスネアを担当することはまずあり得ない。あっても単発のシンバルとか、トライアングルとか、良くてもバスドラム(大太鼓ね)だね」



まあ大抵は部員も潤沢におり、一年生はコンクールでは重たい楽器運びとか、本番の時の譜面台と椅子運びってのが普通だと思うね・・・。



「小説なんでリアルを求めすぎてはいけないけどリアリティが無いのは文中で平然と嘘を言われているようで虚しくなる」



キミの中で普門館がちょっと大きく膨らんでないかい?



「高校球児の中にある甲子園と同じだよ、きっと」



なるほど。



「主人公は全くゼロから音楽に触れている。一つの曲をコンクールで発表するのは生やさしいことではない。段階を踏んで成長していってもらえればもう少し共感できたと思うが」



例えば?



「うーん、例えば・・・全国大会の常連ではなく、地区大会を通過したりしなかったり位のレベルの学校であるとか(それでもかなりなレベルだ)、基礎練習に明け暮れて2年生の夏からやっとレギュラーとか・・・そのくらい身近なレベルで物語が進行しないとリアリティが無いし、あり得ないレベルで話しが進まれると全く親近感がわかない。そういえば、この本を読んで『私も昔は吹奏楽部で、内容にとても共感できました』的レビューをよく見かけるが、そういう方々は余程の強豪校か名門校出身者に違いないと思う。普通の平凡な公立中学校の吹奏楽部出身者には共感出来る部分が少なすぎた」


今回はかなり手厳しいレビューになったな。




「次は何かリアルとは違った『リアリティ』を感じられる作品を何か見つけてきます」



部活動に思い入れがあったとはいえ、今回は本当に偉そうな文章だったな!

人の痛みの分かる人になりなさいよ、小人のキミ!