Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『ブレイクスルー・トライアル』 伊園旬 を読んだ

 いらっしゃいませ。

 ・・・レモネード?・・・ああ、水ですよ、いつも通りに。

サクランボを飾ってみました。黄色いグラスに氷を入れて。なかなか見栄えが良くなりますね!

どうでも良いですが、冷麺の上に乗ってたりするサクランボって、どう処理して良いのか判らなくなりますね・・・。



 彼は先日伊園旬(いぞの じゅん)氏の『ブレイクスルー・トライアル』を読了したらしい。今回はその感想を書きたいそうだ。

 どうだったかね?



「・・・うーん、色々と惜しい・・・。」



惜しい?



「あ、まあ面白く無いわけではないので・・・。ただ、第5回『このミステリーがすごい!』の大賞というのを見て期待しちゃうと『・・・?』な感じに陥る」



キミがそうだったわけだな。とりあえずどんな内容であったか書きなさいよ。



「軽妙なタッチの現代版『金庫破りサスペンス』といったところか?

 IT系企業が自社のセキュリティー商品の安全性を知らしめるために、懸賞金1億円の一大イベント<ブレイクスルー・トライアル>を企画した。そのイベントに参加することを決めた、門脇と丹羽。競技は、技術の粋をつくした難攻不落の研究所に侵入し、制限時間24時間以内に、所定のものを持ち帰るというものだった。彼らにはそれぞれの過去があり、このイベントで優勝することによって人生を変えようと考えていた。

 ひょんなことからイベントに紛れ込んだダイヤモンド強盗犯グループも参加、更にライバル会社から派遣されたスパイチーム、それに保険会社の依頼でダイアを追う私立探偵、研究所の守りを固める叩き上げ頑固一徹の管理人、それぞれ思惑を胸にイベントに集結する。侵入者を阻むため、各所にはセキュリティーシステムが設けられいる。数々の障害に立ち向かい、突破するのはどのチームなのか。門脇と丹羽は無事帰還できるのか・・・」


・・・また単行本の紹介文とかだな?



「・・・否定はしません・・。あ、でもちょっと加筆しております」



・・・。さて、感想とかなのだが。




「今回若干ネタバレしてしまうかも知れません。というか、『惜しいな』と思うポイントを突いてしまうと、必然的に触れてしまいそうな感じ」



もしこれから読まれる方は気をつけて頂いてという感じだな・・・。


では、良かったことから書いてみたまえ。




「読みよいです。軽い。軽妙な語り口でサクサクいけます。まあ楽しくないことはないです」



で?



「まあ、そんな感じ」



・・・・では、突っ込むべきところを・・・。



「・・・えーと、まず、前提として、『防犯セキュリティー破り』の競技なのに、突破すべきセキュリティーが少なすぎる!」


あら。


「お約束として、こういうものは次々に現れるセキュリティーをこれでもかと突破していき、そこでドキドキワクワクして楽しむ小説であるはずだが・・・」



うむ。



「今回セキュリティーとして出てくるのは、指紋認証、静脈認証、眼球の虹彩認証、それにセキュリティーロボット。あと番犬も出てくるか」



ふむ。あまり多くはないな・・・



「その上、指紋、静脈の2つのバイオメトリクスに関してはあっさり凄腕技術者が良くできた模型を作成して(まあ、データの盗み出しとかの過程とかもあるが)、すんなり通過。館内のセキュリティーは実質セキュリティーロボットのみで、その上こいつらもほとんど機能すること無いままに地下室に押し込まれてしまう」




えーと、お約束の『ピンチ』とかって・・・



「有ると言えばあるが、そこにドキドキもワクワクもない」



むむう。




「すんなり建物に侵入してしまう『ミッション・インポシブル』に面白みを感じるかね?見応えはそこ。小説だって読み応えはそこだと思う」




まあそうだろうな。他には?



「絶対に伏線だな?と思わせる部分が全く伏線ではなかったり」




ほう。




「ネタバレになるが、件の凄腕技術者が、主人公チームのGPS端末のオペレーターとして雇われているのだが、実は同時にライバルチームである『強盗チーム』のオペレーターをこっそり引き受けているのだ」




おお、それぞれ敵チームに情報がばれてしまう可能性が!!お約束の伏線!




「ばれない。お互いに」




・・・



「最後まで何らトラブル無く、裏切りもなく、技術者はオペーレートし続けて競技は終わる」




なぜ?混乱しなさいよ!裏切りなさいよ!機械トラブりなさいよ!



「伏線ではなかったようだ。イベント無し」




それは盛り上がらないなあ・・・。



「あと、ネットの読書感想文なんかで良く書かれている前半の導入が長いという指摘を見かけたりするのだが、まあ主人公達の背景を描くにはこれくらいは尺的にありかと思ったりしたが・・・、やたらとこの登場人物達が好みの女を言う件はすべて余計だね」




性格設定とかを出したいんじゃないのかい?




「主人公は色々過去があって、性格設定が表向きは明るいが実はかなりシニカルな性格である、ということになっている。カフェで見かける女の子にときめくとか元同僚の女の子に惚れていたとかの記述はかなり軽薄感がある。そこに字数を使うなら、もっとドキドキを増すことに字数を使ってほしかった」



なるほど。




「あと、宝島社に騙されてる自分がちょっと悲しい。前回『このミス』でやはり大賞であった『禁断のパンダ』がそれほどの作品でなかったのに、また『このミス』大賞の本を買って『?』な気分を味わっている」




『このミス』で選ばれているのがダメな物ばっかりなんじゃないのか?




「そうとも言い切れないと思うよ。たとえば『チーム・バチスタの栄光』とかは評判良いらしいし」





キミも映画まで行っているな。原作読んでない割に。




竹内結子、はまり役だったと思いますよ」




まあ、当たり外れの多い賞と言うことなのかも知れないな・・・。というか『チーム・バチスタの栄光』だけが突出してオモシロイってことだったりして・・・。




「・・・まあ、そんな感じだけど、ちょっとだけフォローさせてもらうと、伊園旬氏はこの作品がデビュー作であるってこと。まだまだ伸びしろがある人だと思うよ。あと、同時進行する出演者達のザッピングの仕方はなかなか秀逸であったと思うよ」




ふむ。まあ、いずれもっと良い小説を書いてくれたらいいな・・・。暖かい目で見守ってやれ。



あまり批評ばかりするなよ小人!