いらっしゃいませ。
・・・いや、辛口とか甘口とか言われても・・・。
あ、塩と砂糖があるので・・・。どうですか?
過日彼は森見登美彦氏の小説、『ペンギン・ハイウエイ』を読了したらしい。今回はそれについての感想とかを書いてみたいそうだ。
氏の小説的には新しい方向性を模索しておる感じの小説のようだが。
「・・・従来の作品とは違う感じになっていますが、これに諸手を挙げて賛成するか否かは意見が分かれるところですな・・」
ほう。
「個人的にはちょっと『?』な感じですな」
キミはかなり森見氏の小説は好みであったと思うが、それでも『?』な感じなワケだな。
「今作に関してはちょっと辛口で」
まあ、感想は後ほどということで、とりあえず例によって内容とかを書いてみるかね。
「ジャンルとしては・・・、少年の成長とかって感じで・・・。ジュブナイル小説とかって言うんでしょうか。
<僕>(アオヤマ君)は、小学校4年生の十歳。日々の出来事を『研究』してはそれをノートに綴り、一日一日、昨日の僕より偉い大人にならんとしながら生活している。周囲に自然の残る郊外の新興住宅地に住み、近所の空き地や、森、川、カフェ、歯医者さん・・、すべてを記録しながら研究に没頭する毎日を送っている。
ある朝の集団登校時、雑草の生えた空き地にペンギンたちが集団でうろうろしているのを見てしまう。このペンギンたちは?ペットの集団脱走だろうか?結局ペンギンは当然のように大人に発見されトラックでどこかへ運ばれていってしまうが、輸送中に荷台から消えてしまう。<僕>はペンギンの出現地点を『ペンギン・ハイウエイ』に見立ててペンギン研究を始めることにした・・・」
なんだか味も素っ気もない紹介だな。
「情報量としてはたいした量ではないので、これ以上書くと内容に食い込んでしまいます」
ふむ・・。
今回もネタバレの恐れを多大に含んでいるようなので、注意して読んで頂きたいということで。
タイトルの意味とかについて書いても大丈夫かね。
「問題ないと思います。『ペンギン・ハイウエイ』は、ペンギンの集団が陸から海へえさをとりに行く際、必ず集団で通る道のことなんだそうだ」
ふむ。
「<僕>は街に現れたペンギンを研究、その出現ポイント等を記録し、南極のペンギン・ハイウエイに見立てて『研究』していく」
なるほど。
「森見氏の小説というと、舞台は『京都』、登場人物は『クサレ大学生』というのが定番だが、新しい舞台として『郊外』(今回は自然の残る新興住宅地)、登場人物は未来を想う十歳の少年と、なんだかさわやかな感じである」
ふむ。
「少年の一夏の成長物語なので、クサレた部分は皆無。分かりやすい」
なるほど。
「個人的にはそのあたりのところがどうも普通すぎる感じ・・」
ほう。
「氏が京都を描くと、とても妖しく、そしてキラキラしている。夜の先斗町も、鞍馬の山も、叡山電鉄も、ぼんやりと妖しく、そして魅惑的な光を放っている」
ふむ。
「もしかしたらそれは、京都の町の古い文化と今日の生活感が一体となったものがそれを感じさせるのかも知れない」
ふむふむ。
「どうも健全な新興住宅地にはその不思議な光が感じられない」
ほう。
「感じるのは山を切り開いて遮る物のなくなった直接的な太陽の光・・。同じ暑さにしても京都のじっとりとした感じではなく、アスファルトを焼く暑さを感じるのみ」
ふむ。
「あの京都の『妖しい』魅力を書ききっているのが氏の小説の魅力の一つなんだと思う」
ふむふむ。
「今回は歴史の無い架空の新興住宅地で、街に妖しさもリアリティーもない。まあ、妖しさやリアリティーがないのが新しい街の特徴であるのだろうけど」
氏も出版前のインタビューで、郊外を書いてみたかったと言っていたしね。そのあたりは狙いなんじゃないのかな。
「まあ、狙ってその人工的な清潔感みたいなのを書いたのかも知れないね。混ぜものが入っていないというか、純粋であるみたいな感じ・・・」
その辺りでまず好みが分かれるかな?
「・・・逆に今回の主人公では京都には合わない、かな・・・?」
・・その主人公であるが。
「極めて純粋に、まっすぐに成長している小学校4年生。クサレたところもなく、ひねくれたところもなく、特に内気というわけでもなく、勇気がないわけでもなく。もちろん堕落した生活を送っているわけでもないし、詭弁を駆使したりもしない」
おお、今までの主人公達とは真逆だな。
「今までの主人公達は、堕落した不毛な学生生活を送り、ぼろい学生寮に住み、彼女もいず、モテず、かといって学業に精を出すわけでもなく、だらだらとした生活を詭弁を駆使して正当化して、むにゃむにゃと生きている感じの大学生達が主人公であった」
そんな感じであったな。
「この主人公達が魅力的であった。まず、生活がカオス。行動もカオス。自分が堕落したクサレ大学生であることは重々承知しているが、カオスな詭弁を駆使して自らのカオスっぷりを言い訳し続け、あまつさえ正当化しだしたりする。その言動や行動がとてつもなく魅力的」
クサレているのに。
「その詭弁を労した文章がなぜだかとても格調高い。ものすごいテキスト量だったりするのだが、それを読むのが苦痛ではなく、その文章の固まりを咀嚼していくのがかえって快感であったりする」
読みにくい文章だというような方もいるようだが。
「決してガシガシの純文学ではないし、むしろエンターテインメント色が強いと思う。何が言いたいのか分からない純文学であるとか、回りくどい言い回しの翻訳物とかに比べたらはるかに言いたいことははっきりしている。基本、言いたいことは主人公の詭弁を弄した『苦悩』という名の『言い訳』であるので、それを面白く感じられるかどうかが分かれ目と言えばそうかも知れないが。決して読みにくいわけではないと思うよ」
今回は既存の作品に比べると少々テキストの量が少ないかな。
「今回の『ペンギン・ハイウエイ』は主人公の<僕>の一人語りが主であるが、同じ一人語りでもくどくどと言い訳を言う既存の主人公達と違い、あくまでまっすぐに自分の言いたいことを語っている。しかもそれがとても純粋だ」
ふむ。
「少年が自ら日々成長している様を語るが、何だか普通な感じがする・・・」
なるほど・・・?
どうかね、この本自体はお薦めできる感じかね。
「決して面白くないわけではありません。10歳の少年の成長をキラキラと描いた良作ではないかと思います。ただ、既存の森見作品のノリを求めてしまうと物足りなく感じてしまうと思います。それでも極めて読みやすい本であるので通勤・通学のお供に、あまり重すぎない本をお求めの方に、読書感想文の宿題の出ている中高生の方に、それぞれお薦めできると思います。あ、ジブリとかが映像化すると良いかもしれません。というか、読んでる最中、かなりジブリ的なキャラクターに脳内変換されておりました・・・」
ふむ・・・。
氏の作品は今後も読んでみたいと思うかね。
「恐らく近日に『有頂天家族』の続編が出るものと思いますので、それはちょっと楽しみであります」
また何か皆様にお勧めしたい書物などがあれば記事にするのだぞ。
こんな感じで今回は終わる。