Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『麦の海に沈む果実』 恩田陸 を読んだ

 いらっしゃいませ。

 ・・・いずれ神戸市水道局の人が表彰してくれるよ、ですか・・・?

えーと、本来の目標はそちら方面ではなかったような気が・・・。




 過日彼は、恩田陸氏の小説、『麦の海に沈む果実』を読了したらしい。恩田作品はちょっと久しぶりかな?







「冬に『禁じられた楽園』を読了して以来でしょうか」




今回読んだ作品はどうであったかね。





「まごう事なき“恩田ワールド”でしたな。そして素晴らしく“少女漫画の世界”でした」




ほう・・・。では、例によって内容などを書いてみるかね。






「この本、単体としては学園もののミステリー・ファンタジーといった感じでしょうかね・・・。


 理瀬は北の湿原地帯にある広大な敷地を持った全寮制の学校に転入していくが、この学園には『三月以外の転入生は学園に破滅をもたらす』という伝説があった。二月最後の日に転入してきた理瀬はその伝説を聞き不安に心が揺れる。
 閉ざされた全寮制の学園、年間を通じてほとんど外出することが許されず、外部との電話のやりとりさえ禁じられている閉鎖的な空間。教育レベルは極めて高く、望めばあらゆる分野の専門教育を受けることが出来る。そのため専門分野をのばそうと子供に英才教育を受けさせるために入学させる親がいる。が、反面、その閉鎖環境から複雑な事情を抱えた子供を閉じ込めるための『檻』のような役目を持った、外界から隔絶した閉鎖的な学校であった。
 理瀬の転入以前に生徒が二名失踪しているが、学園を束ねる校長のもみ消し工作なのだろうか、どちらも転校したなどの理由にされていた。その真実を暴こうとする生徒達と理瀬を加えたメンバーで、校長は失踪者の霊を呼び出す降霊会を開く。果たして失踪者の例はあらわれるのか?そして新たな犠牲者が・・・・」





何だか複雑だな?




「この本単体の説明はこれ以上は無理ですね・・。ネタに触れまくってしまいます」




というわけで、例によってネタバレしてしまう可能性があるので、未読の方で読む気満々の方は注意をしながら先へ進んでもらいたい。






「今作は、とても耽美な感じですな。」




ほう。




「閉ざされた全寮制の学園、憂いのある美少女、影のある美少年、歴史を持った学園の光と影、そして殺人事件・・・。まさに少女漫画の世界観ではないかと思います」





ふむ、まさに。






「その、『学園ゴシック・ミステリー』に、恩田氏独特の視覚に訴える文章表現。光と影、日常の学園生活と謎めいた登場人物達・・。もしコミック化されていないのなら、画の上手い漫画家さんでどなたか少女漫画にしませんか?絶対に面白いと思いますよ」





ほほう。





「・・・でも、実写映画にすると、ちょっと違うんだよなあ・・・。せめてアニメだね」




実写はダメかね。




「登場人物が、どれもこれもどうやら半端無い美少年・美少女でないと、画的に成立しないような気がして・・・。ちょっと現実離れしている感じなんだよね。」





空想の世界にしかいなさそうな感じということか。




「物語の雰囲気的にね」




読んでみての感想はどうかね。




「かなり面白かったですね。ただ、終盤でちょっとエンディングの想像がついてしまったのがあれですが、それまでの、まるで夢の中のような表現は本当に霧の中をさまよっているような感じで大変引き込まれました」




おお、褒めておるな。





「例えば、『夜のピクニック』が“現実世界の恩田ワールド”なら、この作品は“幻想世界の恩田ワールド”、という気がします。それは“常野シリーズ”のような完全なファンタジーではなくて、本当に幻想というか・・・」





・・・ふむふむ。

ところで、『単体では』という表現をしていたな。






「この作品は他の氏の作品のいくつかと複雑なリンクをしておって」





ほう。




「ここでは端折って紹介するが、『三月は深き紅の淵を』という作品の中に、水野理瀬という少女を主人公にした本作そっくりな小説が入れ子になっている。小説内小説という感じか?さらに本作『麦の海に沈む果実』には、物語の鍵を握る〔三月は深き紅の淵を〕という赤い本が登場する。また、『黄昏の百合の骨』という小説の主人公も女子高生・理瀬だ。

 特に『三月は深き紅の淵を』は極めて複雑に物語が絡み合っているので興味を覚えた方は読んでみていただきたい。なにがスタートで、なにがエンディングなのか・・、なにを書いているのか・・・。

 『黒と茶の幻想』も何か関連しているんでしょうかね。これは未読なので分かりません。いつか読んでみます」




ずいぶんと端折ったな。





「このリンクの説明をし出すと、今回の『麦の海に沈む果実』の読書感想文という内容から逸脱して行き過ぎますので。それは本末転倒なので」





なるほど・・。

で、今回の作品はおすすめできる本かね。





「かなりお薦めですね。まあ、ラストが『・・・』ではありますが(好みの問題です)、それを差し引いても世界観に引き込まれていきましたね。耽美なストーリーをお好みの方、学園ものがお好みの方、ファンタジックなミステリーがお好みの方(あ、推理ものでは無いですよ)、読みやすいのではないでしょうか。午後のゆったりした一時や、眠りに入る前などに良いかも知れません。『三月は深き紅の淵を』を売っぱらってしまったことを現在後悔しております」





まあ、聞くまでもないが、氏の作品はまた読むかね。





「いずれ『黒と茶の幻想』あたりを読むことになろうかと思います」





今回は面白い作品で良かったな。

また、何かあれば皆様に紹介していくのだぞ。