Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『純喫茶探偵は死体がお好き』 木下半太 を読んだ

 いらっしゃいませ。

 街を歩いていると、彼岸花がたくさん咲いているところを見つけましてね。

いやあ、なんだか秋っぽいですねえ。水もいつの間にやら冷たさを増してます・・・。




 
 過日彼は、木下半太氏の小説、『純喫茶探偵は死体がお好き』を読了したらしい。今回はそれについての感想とかを細々と書いてみたいそうだ。








あまり名前を聞かない作家さん、かな?






「どうかな。2006年の処女作、『悪夢のエレベーター』がスマッシュヒットして、2007年にはテレビドラマに、2008年にはダンカン氏の演出で舞台に、2009年は内野聖陽の主演で映画になってたりするので、一部ではそこそこ名前が売れているかも知れない」







ほう。
で、今回読んだこの『純喫茶探偵は死体がお好き』という本はどうであったかね。







「・・・・うーん。どうもなあ。なんだかバラバラの何かをつなぎ合わせたような感じで、それを最後に帳尻あわせをしているような・・」






ふむ・・・。
スマッシュヒットしたという『悪夢のエレベーター』から読んでいるのかね。





「一応ね。『悪夢のエレベーター』は、アイディアがなかなか良かった。演出の仕方によっては良い芝居や映画になる素材であると思ったね、確かに。ただ、初の小説ということで、文章はひどかったね。小説というよりは戯曲という感じで。・・うーん、戯曲でもないな。台詞と状況の羅列のような文章で、とにかく小説とはいえない感じであった」






ほう。
それでも続編とかを読もうと思ったんだな。





「まあ、それには理由があって。『悪夢のエレベーター』を読んだら、著者のプロフィールのところに大阪の劇団で、『劇団KGB(カー・ゲー・ベーと読むのか?)』の主宰・演出と書いてあって」






ほう。





「全然知らない劇団だったんだけど、関西の劇団の人なら応援しても良いかなと思って、二作目(?)の『悪夢の観覧車』と、三作目(?)の『悪夢のドライブ』を同時に購入した。登場人物の関連性から、順番は合っていると思う」





ふむ。






「とにかく買ってしまったら、読まないといけないようになるわけで、二作目の『悪夢の観覧車』を読んだら、文章的にも格段に成長していて、アイディアも良く、キャラもたっていて、存外にしっかり作品で。これはなかなか面白かった」






ほう。






「おお、これは応援のしがいがあるかなと思っていたら、三作目は普通で(面白くないわけではなかったが)」






ふむ。





「その間に劇団は改名して上京していたらしい。現在は活動の拠点は東京のようだ。改名後の劇団名は『劇団ニコルソンズ』というらしい」






ほう。





「そりゃ『KGB』はまずかろう、いくらなんでも。因みにちょっとWikiってみたら、2008年に上京、2009年に第一回本公演、今年、2010年11月に第二回公演を行う予定らしい」






ほほう。






「で、その後四作目、五作目と読んでみたけれど、どちらもそれほど面白くなく」






ふむ・・・。
理由とかは?






「まず、お約束を平然と破る。どうもセオリーを破るのが好きみたいだが、常道であるべきところで常道をはずす。また、常道をはずす事と、どんでん返しをはき違えている感がある」






ふむ。






「次にやたらと人を殺す。殺すなとは言わないが、殺したことで常道からはずそうとしているがそれがいけていないことに気がついていない感じ。殺すべき人物は殺して殺すべきでない人物は殺さないというセオリーは守るべき。殺すべきでない人物がぽんぽん死んでいくので、その時点で物語が行き詰まっているのが手に取るように分かる。広がらないんだ」






ふむふむ。






「あと、バイオレンスなコメディを目指しているようで、やたらと登場人物が痛い目に遭うが、どうもその辺りも合点がいかない」






ほう。





「今回読んだ作品でもそうなんだけど、例えば登場人物の『膝がボキリという音がした・・・(因みに膝十字を決められて、完全に破壊されているニュアンスだ)』とか、『左足に痛みが走った。弾が当たったらしい』みたいな記述とか、『鼻が折れたようだ。血がドボドボと流れる』といった書き方をすれば、基本的にそのキャラクターは全く身動きがとれない状態であると容易に想像できる。ところがこの作者の場合、意外にそのあとキャラクターが動く。足に着弾してもそのあと格闘戦を繰り返すし、足が折れていても走って逃げてしまうし(折れたとは記述していないというかも知れないが、文章のニュアンスとしては完全に破壊されている)、鼻の骨が折れても頬骨が陥没しても戦意を喪失しない」






ふむ。






「その辺でつじつまが合わなくなる。『折れた』か『折れてない』かで、その後のキャラクターの動きや扱いは大きく変わるはずなのに、『折れた』状態で動かれてしまっては(常道の物語としての)つじつまが全く合わないのだ」






なるほど。





「キャラクターが全員ゾンビとかなら分かるが、あくまで人間である。そんなに簡単に砕けた骨では動けない」






ふむ。





「あと、キャラクターの設定が物語のスタートと後半とではあまりにも違いすぎる」






ほう。





「『成長した』という一言では済まないような別人具合。あ、もしかしたらこの辺りは触れるとネタバレになるか?」





まあ、ネタバレ注意報ということで。





「今回読んだ作品では、主人公(?)の真子は“柔道は黒帯であるが、恋愛は白帯なさえない小柄な元女性刑事。ちょっとしたことで上司を投げ飛ばしてしまって、刑事を辞めてしまった”、という地味目のキャラだが、物語の後半では、ほとんど嘉納治五郎もかくやという女性格闘家になってしまう。浦沢直樹が『YAWARA!』に登場させんばかりの強さのキャラになってしまう。いくら元女性刑事でも、その突然の超人ぶりは異常であり、物語の導入はなんだったのかという感じである」





ふむ。
長々と書いてしまったあとであるが、一応内容とかにも触れておくかね。






「元女性刑事の大星真子は、柔道は黒帯だが恋愛は白帯。現在は求職中。一ヶ月前に、暴力団から賄賂を受け取っていた上司を柔道技で投げ飛ばしてしまい、警察をクビになっていた。そんな真子が、偶然入った喫茶店のマスター、ツヨシに一目惚れしてしまう。マスター見たさに喫茶店に通っていたが、偶然にもその喫茶店でアルバイトをすることに。
 一目惚れしたマスターと一緒に働けるということで喜んでいたが、マスターの娘キリコと、その彼氏の旬介に、元刑事なら、行方不明の自分たちの担任の女性教師を捜して欲しいと言われる。捜索の結果、その女性教師は殺されていることが分かり、犯人を追い詰めるがその犯人は取り押さえる間際に自殺してしまう。
 その後、真犯人とおぼしき男を捕まえるが、“謎の組織”に犯人を強奪されてしまう。犯人を追う真子とツヨシは、いつの間にやら鎌倉時代から続くお家騒動に巻き込まれ、日本全土が火の海になるかもというテロ計画にまで巻き込まれてしまう・・・」





おお、なんだかあらすじだけ見ると、とてつもない傑作のようだが。





西尾維新氏あたりが書くと、エラくうけそうなプロットだけどね。もしくは、夢枕獏氏とかにバリバリにバイオレンスに書いてもらうと『キマイラ』シリーズばりになりそうだけどね」





・・・・なっていないと。






「うーん、なんだかバラバラの積み木を米粒かなんかで引っ付けた感じというか・・・。スタートしたあと、中間点も着地点も見えていないのに物語を組み立てようとしているというか・・・」







ふむ。





「この物語のスタートは、やたらと勘の良いマスターと、元刑事の柔道家女性のでこぼこコンビの探偵もの?という感じで書き始めるが、途中からバイオレンス路線に大きく転換する。正直なところ、王道の素人探偵もので全然活躍できるキャラクター達なのに、なぜだか変化球を投げたいらしい。別に変化球でも良いが、ストライクゾーンに入らないことには全くお話にならないと思う」





厳しいな。






「最初のキャラ設定だけで、東野圭吾氏ならベストセラーかもしれない。直球を投げて。物語がしっかりしていれば、別段変化球でなくても読み手にはばっちり勝負球に見えるはずであると思う」






ふむ。





「この劇団の芝居までどんなものかが見えてしまうような気がする」





さらに厳しいな。






「個人的に、小説にも芝居にも、そんなに強烈なメッセージやテーマは求める気はない。ただ、“ぶれず”に、“しっかり”投げ込まれたものには好感は持てる」







ふむ。






「まあ、今や東京の劇団の人なので、この劇団の芝居を見に行くことはほとんど無いと思うけど、主宰の小説を読んで、『ああ、面白かった!この主宰の劇団なら芝居も観てみたい!』と思える本を書いてもらいたいなと思うね」






なかなかに厳しい感じの感想であるな。

今回はこの辺りで終わる。また何か面白そうなものを読んだら感想とかを書くのだぞ!