Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『砂漠』 伊坂幸太郎 を読んだ

 いらっしゃいませ。


 さすがに外は寒そうですね・・・。


あ、こっちのほうが暖かいですよ。給湯器も近いですから。





 彼は過日、伊坂幸太郎氏の小説、『砂漠』を読了したらしい。今回はそれについての感想を、あーでもない、こーでもないと書いてみたいらしい。

どうであったかね、今回の本は。






「・・・うーん・・」





なんだか難しいそうな顔をしているな。





「本当に好みが分かれると思いますね、この作品は・・・」








感想なんかの前に、内容に触れておくかね。まあ、例によってネタバレ注意報発令ということで。





「ちょっと変わった雰囲気の青春小説です・・・。


 仙台の国立大学の法学部に入学した北村(語り)は、顔見せの飲み会に一人遅れてきた小太りの男、西嶋になぜか興味を覚える。西嶋はかってに自己紹介をし始めたあげく、単なる飲み会の席であるはずなのに、アメリカの中東進行について断固反対の姿勢を示し、まるで空気の読めない発言を力説し始める。

 後日、ほとんど面識の無かった西嶋のほうから、北村に麻雀の誘いがある。名前に“北”の字が入っているというだけの理由で誘われたのだ。同じ理由で、東堂(女性)、南(女性)、さらに飲み会で話しかけてきた男・鳥井を含めた5人で、鳥井の部屋で麻雀卓を囲むことになる。

 彼らは、この西嶋というちょっと変わった男に惹かれ、何を、どう生きて、大人になって良いか分からない、不確かな大学生活を共にすごしていくことになる・・・」




青春小説だな。





「物語的には、主要登場人物5人の成長物語的な物である。物語の冒頭で、“学生というのは近視眼型か鳥瞰型に分けられる”という話があり、何事も少し離れた位置から物事を眺め、周囲を見下している“鳥瞰型”と分類された北村が、自らの身の回りに少しずつ積極的になっていく、というのがまず物語の骨子にあって・・・」





ふむ。





「・・・今回の話を、『面白くなかった』だの『ダメだった』だのとぶった切るのは簡単なんだけど、単純にそう書いてしまうと、“ああ、この人は伊坂作品の良さを全く理解出来ない、愚鈍なパンピーであるのだな”と思われてしまいそうだし・・・」





何を悩む。




「・・・面白さというか、入り込めるかどうかということなんだけど(こういった等身大の青春物語なんかでは特に)、登場人物やストーリーに共感出来る物があるか無いかで、それは大きく変わってくると思うんだ」






ふむ。





「それがごくごく些細なことでも、今回最後までそれに納得出来なくて」





・・・ほう。






「主要登場人物の一人、“西嶋(ある意味主人公である)”はかなりキモヲタ風の外見で(まあ、外見はどうでも良い)、空気が読めない発言を繰り返し、強引に自分の話を進める。その強引さに有言実行が伴っているのでなぜかそのほかの登場人物達に魅力的に映り、皆が少し前を向いて生きていくという感じ(のストーリー)なんだが」





結構なネタバレ具合ではないか?





「この西嶋が、“仙台市内でアメリカ大統領を求めて暴行を続ける男”を『プレジテント・マン』なる呼び名をつけて、ものすごく感情移入する。この男は世界の平和を望んでいるのだ!と」





ふむ。





「ただ、どう考えてもこの『プレジデント・マン』、単なる基地外である。戦争反対をアメリカ大統領に訴えるべく、なぜか仙台市内を夜な夜な徘徊し、成人男性を見かけると暗がりへ引きずり込み、男性をねじ伏せながら『大統領か?大統領か?』と問い詰めるというもの。どう考えても日本に、さらに局地的に仙台市内にアメリカ大統領がふらふらしているはずはないのだが、お構いなしで襲いかかる。明らかに基地外の通り魔でしかない。西嶋はこの通り魔に親近感を感じ、あこがれにも似た発言を繰り返す。周囲の人間も、それについて特に『おかしい』という発言をせずに西嶋を見守る」






・・・ふむ。






「しかしながらこの『プレジデント・マン』、読んでいても基地外にしか思えないし、実際に語りである北村も襲撃にあったりしているにもかかわらず、登場人物達はそれぞれに『プレジデント・マン』に対して特に違和感なく“世界平和に憤っている人”として理解しているように見える。多分、強引な男・西嶋の影響であるということなんだろうけど、正直全く理解出来なかった。正常な意識として、アメリカ大統領に対して意見を直接言いたい(もしくはテロを起こしたい)と考えた場合、実行に移すなら(それが正常な行動かどうかは別として)、アメリカへ赴き、アメリカで探すだろう。何度も書くが、少なくとも仙台で、夜半にうろつく成人男性の中にアメリカ大統領は存在しない。どう考えても基地外の思考。それに対して、その行動はアメリカ大統領に対しての熱い抗議活動であるとする西嶋にどうも共感が出来ない。また、それをなんだか肯定的に解釈するそのほかの登場人物にも共感出来なかった・・・」






・・・ふうむ。







「小さな引っかかりのように思うかも知れないが、この『プレジデント・マン』が意外にも物語内にたびたび浮上するから始末に悪い」





ふむ。





「最後まで共感出来ないまま終わってしまった・・・」





なるほど・・。





「こういうことでおもしろみが無くなったと書くと、“西嶋のキャラクターを分かってない”とか“世界観を分かってない”だとか、あげく“伊坂作品の読み方を分かってない”だとか“愚鈍な素人”とかっていわれてしまうと思うけど、消化出来なかったのは事実・・・。確かに、この西嶋のセリフには、なかなか心に響く物が多数ある。・・ただ、どうも、共感出来ないんだよなあ・・・。“本の読み方を知らないやつのたわごと”なんだろうか・・・」






まあ、なあ・・・。

伊坂作品は、単なるエンタメ作品ではないという括りになるだろうからなあ・・・。
本好きには理解されるし、共感も出来るはず!なんて事を思われるかもな。





「『おもしろい』という物は難しいことであるなあ・・・」




なるほど・・・。
どうかね。
また伊坂作品は読むかね。





「少し前に読んだ『魔王』がちょっと“?”な感じであったし、今回読んだ『砂漠』は“???”な感じであるし・・・。まあ、また気が向いたら読みたいと思います・・・」






ふむ・・。


どうかね、この作品はお勧めかね。






「登場人物の西嶋を愛されキャラと感じる方は問題なく面白いんではないでしょうか。まあ、伊坂作品を面白いと感じる方はチャレンジしてみても良いかも知れません」





なるほどねえ。

まあ、難しい感じで今回は終わる。