Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『推定少女』 桜庭一樹 を読んだ

 いらっしゃいませ。


 空いているお席へどうぞ。





 彼は過日、桜庭一樹氏の小説、『推定少女』を読了したらしい。今回はそれについての感想なんかを、ちくりちくりと書いていきたいらしい。

氏の初期の作品であるようだが。





「元々はファミ通文庫から出版されたライトノベルらしいな。今回読んだのは角川文庫版で、エンディングか加筆されている」





ほう。








「まあ、ライトノベルと言えばそんな感じなんだけど、大人が読んでも結構楽しめる感じ」






ほほう。

では、恒例ではあるが、内容とかに触れてみるかね。もちろんネタバレ注意報発令という事で。







「主人公・語りは、関東のどこかの地方都市に住む中学校三年生の女の子、“ぼく”こと“巣籠カナ”15才。母と義父の三人で暮らしている。小学校4年生の頃から一緒に暮らしている義父にはなじめず、そのおとな的な感じに性的な嫌悪感を感じていたりする。

 ある日義父と二人だけで、ぼんやりと受験勉強をしながら母の帰りを待っているときに、なぜか義父が窓から顔を覗かせ、しかも手にはロープとガムテープ・・・!弓道部に所属していたカナは、思わず義父に矢を放ってしまう。

 逃げなければ・・・。夜の街を逃げ続けるカナ。逃げ場を失い思わず飛び込もうとしたダストシュートの中には、すでに先客がいた。真っ白い肌に、赤みがかった長い髪の美少女が・・・。しかも全裸でゴミの中に横たわっている。そして少女の手には、その華奢な身体とは全く不釣り合いに大きな銃が握られていた・・・。

 少女は記憶を失っていた。カナにより“白雪”と名付けられた訳ありそうな少女。二人は大都会東京に逃げることにするが・・・」





むむ。
良く分からんな。





「ちょっと端折りすぎたかも知れませんが、ストーリー自体が非常に短いので、あまり書きすぎると物語のほとんどを書ききってしまいそうになるので、こんな感じで・・・」






ふむ・・・。
では感想などを述べてみよ。






「物語的には15才の少女(と少年)の、成長物語と言えるかも知れない。こういった話しがしゃくに障る人には、やれ厨二病的な作品だとか、現実味のない感じがするなどと言うんだろうけど、15才の悩みとか、15才の少女から見た“大人”の受け入れられない部分だとか、そういうものをストレートに読む側に注入してくる良作だと思う。“大人”として斜に構えて読んでしまうと、誰かの中学の時の悩みにしか感じられないかも知れないけど、素直に読めば、誰しもが体験したであろう中学生の、“漠然とした”悩みに共感を覚えることが出来ると思う」






・・・ほう。






「何をしたいのか、何になりたいのか、どこへ行きたいのか、何一つ自分では分かっていないのに、目に見えない流れに乗せられてしまう不安。15才だから感じる家族との葛藤。15才の“友達”との関係。大人の考える“おとな”と、自分たちが目にしている“おとな”とのずれ。“15才”の悩みを忘れている大人達・・・」







ふむ・・・。








「主人公・巣籠カナの感じる不安や悩みを、非常に直接的に投げかけてくる。それだけなら本当に鬱陶しいだけの作品になってしまうと思うけど、作品自体はポップで暗澹とした感じではなく、さらさらと読むことが出来る」







ふむふむ。








「また、主人公達の行動に非常にリアリティがあり、きらきらとしていて好感が持てる。リアリティがあると言っても、クドクドと情景描写をしているわけではない。平易な文章で主人公達の心情や行動をさらっと書いているだけなんだけど、そこに“中学生”の存在感があって、とてもキャラがたっている感じがするんだ」








ほう。







「ただ、個人的には同じ初期作品でも『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』や『少女七竃と七人の可愛そうな大人』のその独特な空気感の方が好みではあるけれども。『推定少女』はやはりちょっと対象年齢が低いのかも知れない」







ふむ。







「この角川文庫版『推定少女』には、3種類のエンディングが用意されている。最初の刊行時に、編集から『ハッピーエンドに変えてほしい』という要望があり、元々の構想からは違ったハッピーエンドで発表されたんだとか。この角川文庫版には、当時のエンディングと、それ以外の二つのエンディングが掲載されていて、三つのエンディングをザッピングするように読むことになる(読むことが出来るとはあえて書かない)」







ほう。







「しかし、エンディングが三つあって、確かにそれぞれの結末は違うんがけれど、結果的に読み手が読み終わって着地するポイントというのは結果的に一つになっているような気がする。まあ、どんなところに着地するのかは読み手の自由であるとは思うんだけど。あまり書きすぎると三つのエンディングすべてがぼやけてしまうような気がするので、これ以上は書かないけど」







なるほどねえ・・・。

どうかね、この本はおすすめできる作品かね。







「漠然とした悩みを抱えている中学生、中学生のお子さんをお持ちのお父さん・お母さん。良いのではないでしょうか。それぞれ逆の立場ではありますが、共感できる部分があると思います。桜庭作品のとっかかりにも良いかもしれません。いきなり『私の男』なんかを読んでしまうと、ちょっと厳しいものがありますが、この辺りならさらっといけます。通勤・通学時にいかがでしょうか」







なるほど。

あまり重厚な作品ではないので、さらっと読むには良いかもだな。


また何か面白い本を読んだら感想なんかを書くように。

今回はこの辺りで終わる。