いらっしゃいませ。
暖かいのか寒いのか良く分からない感じですね。微妙に気持ちが悪い・・・。
・・・アレ?さ、寒い!!
彼は数日前に消えてしまった長文の記事に換わる文章を新たに書こうとしておるらしい。それは以前読んだ有川浩氏の小説、『県庁おもてなし課』の読書感想文であるということだ。今回はこまめなセーブを心がけつつ、ぎゅむぎゅむと文章をひねり出すらしい。
どうであったか。
「本文の感想の前に、今回休養日を使って一気に読んでみたんだけど、自分の読書スピードが著しく低下しているのには愕然としてしまった」
ほう。
「たいして分厚い本ではないと思い読み始めたが、読み終わるまでに4時間半近くを費やしていた。まあ、途中食事をとったり休憩したりしてたんだが。それでもそこまで時間のかかるページ数の作品じゃないはずなんだが・・・」
・・・ふむ。
まあ、日頃の研鑽を怠っているということであろう。
さて、感想などに行きたいと思うのだが、今回も内容とかに触れるつもりかね。
「例によって簡単にまとめてみたいと思います」
恒例のネタバレ注意報発令というわけだな。未読の方は注意して貰いたいということで。
「物語は高知県庁に新部署が作られるところから始まる。その名も“おもてなし課”。主人公の掛水史貴(かけみず・ふみたか)も、この新しい部署に配属されることになった一人。お役所の部署にしてはずいぶん砕けたネーミングの部署であるが、配属された課員達も今一つ何をして良いか分からない。どうやら県外の人に高知県をアピールして、観光客を呼ぼう、高知県をもっと知ってもらおうというのがこの部署の役割であるらしいのだが・・・。
とりあえず独自で何をして良いのか良く分からないので、他県でも良くやっているらしい、“観光特使”というものをやってみようということになった。高知県出身の著名人に特使になってもらい、行く先々で県内の観光地の無料入場クーポン付きの名刺を配ってもらおうという企画で、他府県の二番煎じ企画であるが、著名人の方々は(むしのいい話であるが)ボランティアで特使を引き受けてくれるし、費用もさほどかからないっぽい。というわけで、各界の高知県出身の著名人に電話などで連絡を取ってみることに。
そんな折、掛水が電話で特使をお願いしていた作家、吉門喬介(よしかど きょうすけ)から、特使の仕事の内容についての、問い合わせのメールがおもてなし課に届く。早速連絡を取ってみる掛水であったが、吉門の県庁のお役所体質の仕事ぶりに対してのだめ出しを、ぎっちり訊かされることになる。
おもてなし課に対して、だめ出しの嵐をする吉門ではあったが、掛水に対して、あるアドバイスを行う。およそ20年前に県庁の観光課に、『高知県にパンダを呼ぼう』と言いだした人物がいると。もし観光のことを本気で考えているならその人物を当たってみろと。掛水はその『パンダ誘致論』を唱えた人物に接触して、おもてなし課の仕事のヒントを見つけることが出来るのだろうか・・・?」
みたいな感じか。
「ずいぶん端折ってまとめました。これ以上は氏のベタ甘恋愛ストーリーにも触れてしまうので、本筋はこんなもんかなと・・・」
ふむ。
で、感想的なものであるが。
「読み始めてすぐ、個人的な誤算が発生」
うん?
「主要登場人物である吉門喬介の声が脳内で山寺宏一氏の声に変換され」
ほう。
「序盤は電話口でぶっきらぼうなだめ出しをするだけのキャラだったんだけど、中盤その姿を現し意外に若いキャラだと分かり」
それで山寺氏の声との違いが・・・。
「さらに、後半では有川氏お得意のベタ甘マジックで、どんどんベタ甘キャラになっていく。これで脳内で再生される声と文章内のキャラがかけ離れて行ってしまって感情移入しにくくなった・・・」
ほほう・・・。
「まあ、有川作品なんで、甘いところはしっかり甘いという認識で読み始めたものの、主人公以外のキャラまで甘くなるとは・・・」
ふむ・・・。
「今回読んでみて思ったんだけど、どうもこのベタ甘設定が余計な気がしてるんだよね・・・」
ほう。
「巻末の対談でも語られているんだけど、物語の多くは有川氏本人が観光特使の依頼を受けてからのもたもたした県庁の対応を本当に小説にしたもの。なので、ある意味お役所体質を批判した作品であると言える」
ふむ。
「『本当に高知県をPRしたいの?』、『県の何をPRしたいの?』、『その不誠実かつ非効率な対応では物事は何一つ進みませんよ?』、『そもそも顧客は誰か分かってるの?』、『というかそのお役所体質何とかしなさいよ』といったかなりストレートなメッセージと、反面『せっかく出来たおもてなし課なんだからがんばってね』というメッセージの二本立てでこの小説は成り立っている、と思う」
ふむふむ。
「どうも個人的に、そのベタ甘のオブラートに包んでお役所批判を投げているせいか、どうも話しがどっちつかずな感じで」
・・・ほう。
「主人公は、おもてなし課の仕事をがんばって仕事もちょっと軌道に乗り、ちょっとだけ男を上げて恋も手にする」
ふむ。
お約束的な感じだな。
「まあそれは良いとして。終盤でぐっと盛り上がってエンディングに向かって恋愛話というなら多分本筋はぼけないんだ。『お役所しっかりしなさい』というのももう少し見えやすくなると思うんだ」
ほう。
「ただ、主人公も、そのアドバイザーである吉門も、登場したときから微妙にそれぞれの意中の女性と付かず離れずの状態で、結構恋愛話がメインに打ち出されてくる。どうも話の本筋というか、メインストリームの部分が少し霞の向こうに見えてしまうんだよなあ・・・」
・・・ふむ。
「まあ、元々新聞連載であったものなので、毎回読み進めていく娯楽作品としてはアリなんだろうけどね・・・」
ふむ。
「あと、もう一つの本筋が、『高知県は自然が豊かで良いところですよ!』という強いメッセージ。有川氏自身が高知県の自然に触れて育っているだけに、その辺りにはリアリティーがありますね。太平洋、海岸線、緑豊かな山々、四万十川、それに仁淀川に吉野川・・・」
ほほう。
「まあ、個人的には究極のインドア派なんで読んですぐに行ってみよう!って気にはならないけどね」
誤解が生じる前に言っておこう。キミはインドア派なのではなく、単なるヒッキーなのだよ。
「龍馬像だけが高知の観光スポットではないよということで、高知に行く前にこの本を読んでみるのも良いかと思いますよ」
ふむ。
「本分とは関係ないけど、表紙のウチダヒロコさんのイラストは爽やか。水色の空が広い太平洋を思わせる。ただ、読み終えたあとの印象は、なんだか黄色いイメージ。太陽の、薄い、山吹色、嫌もっと薄い薄い黄色のイメージ・・・。まあ、物語から来るイメージなんて、人それぞれなんだけどね。そもそもウチダさんのこのイラスト、素敵だし」
どうかね。
この本はおすすめできる本かね。
「ぐちゃぐちゃ書いておりますが、決して面白くない本ではありません。むしろ面白い。有川氏のベタ甘小説が好きな人にはドンズバでしょう」
ほう。
「まあ、それよりも、風通しの悪いことを自覚していない企業の社長さんだとか、小難しいマネジメントではなく分かりやすいマネジメントの感覚(顧客は誰?とか)を理解したい人とかに読んでもらえればと思います。あと、お役所や大企業に勤めていて、普段から風通しの悪い環境にいる方とかもうんうん頷きながら読めるかもですね」
なるほど。
「もちろん普通に通勤・通学のお供にも良いんではないでしょうか。“甘い物”大好きな女子高生とかにもお勧め」
なるほどねえ・・・。
まあ、小難しい文学作品も良いが、たまには恋愛小説も良いって事で。無理矢理しめてしまうか。
今回はこのままで終わる。
「あ、追記しておく。まず、『パンダ誘致論』自体はフィクション。ただ、本文でも書かれている神戸の動物園にパンダ、というのは事実。そして、『おもてなし課』というのは、実際に高知県の観光部の中に実在するそうです。詳しくは巻末の対談を(本を購入して)お読み下さい。以上」