いらっしゃいませ。
先月末に近所の温泉施設へ行ったんですよ。そしたら温泉施設にも関わらず、ハロウィンキャンペーンみたいな事をしてて。
しかしながらさすがは温泉施設。客層はじいさんばあさんばっかりで。ハロウィン、意味ないなあなんて思ったんですよ。
・・うちですか?ハロウィン当日?・・・・?
・・・水以外に何か?
過日彼は伊坂幸太郎氏の小説、『魔王』を読了したらしい。今回はそれについての感想とかを、へにょっと書きたいらしい。
伊坂作品も結構読んでいるようだな。
「まあ、ぼちぼちと。積ん読状態の中に、まだ『砂漠』が積まれたままになっているので、いずれは読むでしょう」
今回の『魔王』であるが、作品的にはかなり前に発表された作品のようだな。
「手元の文庫巻末の記述を見ると、単行本として発表されたのが2005年10月となっている」
ふむ。
「実際に雑誌に掲載されたのが2004年の12月と言う事で、読み終わった現在のほぼ6年前の作品であるが・・・」
・・・ふむ。
「小説の内容が、全く今現在の日本の状況のような感じで、伊坂氏はちょっとした予知能力者か?とか思ってしまう」
おお。
「まあ、よくよく考えてみると、その当時の今も、驚異に感じている事なんてあんまり変わらないと言う事ではあるんだけどね。ただ、現在の日本の状況の悪さは、この当時よりも数倍リアリティを増していると思う」
・・・ふむ。
とにかく内容の紹介とかをしていこうかね。
「この作品は、『魔王』と『呼吸』の2作品が連作中編という形で納められている。今回、『呼吸』の方はあまり内容について触れることができない。『魔王』と『呼吸』は物語が繋がっているので、『呼吸』の内容に触れると言う事は、『魔王』のラストをばらしてしまうと言う事なので」
ふむ。
まあ、ネタバレ注意報はいつものごとく発令と言う事で。
「『魔王』
安藤はある日、自分が念じた言葉を、そのまま他人に喋らせることが出来るという、自分の特殊な能力に気がつく。喋らされた方は全く喋ったことを意識せず、意識に他人が入り込んだことにも気がつかず、また、そんなことを喋ったことすら記憶にない。
何故こんな能力を自分は手に入れたのか、安藤は悩む。
このとき、日本の政治は大きく動き始めていた。野党の少人数の政党を率いる犬養という政治家が、これまでの政治を痛烈に批判し、国民に“この男なら期待できるかも知れない”という漠然とした空気が流れていた。その時日本は、経済が低迷、期待して選ばれたモジャモジャの髪の毛の前首相は結局改革を完成させないまま退陣、アメリカからは良いように利用され、国際社会では腰巾着扱い、また、中国からは外向的な圧迫を常に受け続けているような状態で、誰もが強い日本を心の何処かで望んでいる・・・。犬養はそうした国民に、強いリーダーシップ発揮するのではないかと期待されていた。
しかし、安藤は、犬養の言動や行動が、ファシズム時代のイタリアのムッソリーニ首相のイメージと妙に被っていることに気づき、国民全体が闇雲に一つの方向へ向こうとしている時代に強い違和感を感じる。果たして、犬養は日本を正しい方向へと導こうとしているのか。それともファシズムの国にしてしまうのか・・・。
安藤は悩むが、犬養の台頭を止めようと決意する。自分の能力で犬養の政治活動に何らかの妨害をすることができるのではと思うのだが・・・。
因みに後半に納められている『呼吸』は、『魔王』のエピソードから五年後、安藤の弟潤也とその妻詩織の物語・・・」
ふむ・・・。
何だかずいぶん政治的メッセージが強いようだな。
「テーマというか言葉というか、そういった類の言葉が小説中かなり出てくる。ファシズム、憲法、憲法改正、,国民投票、日中外交などなど。ただ、作者のあとがきによると、これらの政治的キーワードは、決して物語のテーマではないそうだ」
ほう。
「しかしながらこれだけ政治的キーワードが並ぶとまるでメッセージにしか感じられなくて、『気をつけろ、一点に流されるな、自分の意志を持たないと、政治なんて単純に一方向へ流されてしまうぞ』というテーマ的な物を読者に訴えかけてくる」
ふむ。
「最初、読み始めてすぐは、『魔王』というのは特殊能力を手に入れてしまった主人公の安藤のことを指しているのかなと思った。もしくは、政治的にファシズム的な発言で台頭をしてきた犬養代議士のことかとも思った」
・・・ふむ。
「しかしながら、魔王は別の物であった」
それは?
「このあたりは読んで頂いたほうが良いのですが・・、例えば民衆に意志であったり、何処か一点に単純に流されてしまう人間のもろさであったりする物が、どうやら『魔王』、らしい」
らしい?
「漠然としています、劇中でも。大きく流れていく時代の中に、小さな特殊能力を持って挑んで、果たして時代の流れを変えることはできるのか・・・」
分かったような、わからんような。
「この小説において、集団の意志というのは危険の印であり、何かに流されていくものに安藤は抵抗を試みる」
ふむ。
「自らでできることは小さい。でも考えて、大きな流れの中でも“自ら”を持て。作者自身は恐らく読者がこうしたメッセージみたいな物を受け取ってしまうのは好ましいとは思わないだろうが、あまりにそれが強く描かれているので、時代(例えばファシズム)に対する警鐘のような小説なんだと思ってしまう」
なるほど。
「小説の最初で、作者は二つの言葉を引用している。
“とにかく時代は変わりつつある” 『時代は変わる』ボブ・ディラン
“時代は少しも変わらないと思う。一種の、あほらしい感じである” 『苦悩の年鑑』太宰治」
ふむ。
「どちらも正解なんだけど、二つは全く逆の言葉。6年前に発表された小説の内容をトレースするかのような国内政治の動き。しかしながら、世界では資源輸出国の世界での影響力がすさまじいことになっている状況。時代は動いている?動いていない?」
ふうむ。
「多分時代は大きく動いている。ただ、それは日本国内では見ることができないゆったりとした、しかしながら大きなうねりで」
ふむ。
「その大きなうねりの中で、単純に流されるのではなく、考えよう、自らの意志を持とう、考えないことが“魔王”を生み出す。そんな事を考えました」
ずいぶんと堅苦しい感想であるな・・・。
どうかね、これはお薦め出来る作品かね。
「どうでしょう・・・?一般的なエンターテインメントではないと思うので、何か単純な物語を求めて取りかかると肩すかしを食らってしまうので、ここから伊坂作品を始めようという人には向かないですね。じりじりとした感がある作品の『魔王』。静かな時間が流れる(しかし本当はこちらのほうがじりじりとした空気が流れている)『呼吸』。それぞれにメッセージ性が強いので、逆にあまりそういったものに影響をされてしまいがちな方は読まないほうが良いかもしれません。その、世界の空気感を楽しみたいという大人の方はお勧めですが」
なるほど・・・。お勧め対象も今回は限られてくるようだな。
「普通に楽しみたいのなら、『死神の精度』あたりから始められたほうが無難ですね。読書感想文を書きたい学生さんもこれならかけると思いますよ」
ふーむ。
なんだかよく分からないが、感想文としてはどうやらイマイチの内容の記事であったようだな。くどい。
イマイチとは分かっているが、今回はこのあたりで終わる。