Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『いつか陽のあたる場所で』 乃南アサ を読んだ

 いらっしゃいませ。


 なんだか暑いんだか寒いんだか分からない天気が続きますね・・・。

水は大分温んできているんですが・・・。








 過日彼は乃南アサ氏の小説『いつか陽の当たる場所で』を読了したらしい。シリーズ化しそうな感じのエンディングであったらしい。

 どんな感じであったかね?





「さすがは乃南アサ氏。人物の心理描写、特に「ちょっと孤独な」女性の心理描写はさすがであると思う」




ほう。どんな内容であった?





「4つの短編からなる連作の形を取った内容であった。なんだか『ミステリー』的な帯が付いていたが、ミステリーではなくもっと『心の小説』である。しみる。


 東京の下町、谷中の小さな一軒家に住む小森谷 芭子(こもりや はこ)29才。死んだ祖母の家で数ヶ月前から一人暮らしをしている。近所のアパートに住む江口綾香41才。こちらも一人で暮らしている。ひっそりと暮らす二人には人には言えぬ過去があった・・。二人とも前科があり、刑期を勤め上げて社会に復帰してきたばかりなのだ。
 過去を知られぬようにひっそりと暮らす芭子。下町特有の遠慮無い空気に戸惑いながらも、誰にも干渉されぬ静かな生活を望み、過去に縛られて生きていく・・・。」





今回もちゃんとまとめてきたな。





「例によってネタバレの恐れがございます。未読の方はご注意下さい」




キミもその辺のところは気をつけるのだぞ!





「今回は読んでいて主人公の芭子にかなり感情移入してしまった・・・」




ほう。




「主人公の女性コンビの二人は、もちろん前科を持ていることをひた隠しにして生活している。当たり前のことだが。そのため、特に主人公の芭子は他人からの干渉やコミュニケーションを恐れる。元々がそうしたコミュニケーションが苦手な人なのだろう。下町の住人の行動が孤独でありたい彼女の神経を逆なでる。彼女には理解できないのだ。なぜ見ず知らずのおばちゃんが旧知の仲のようにうわさ話を始めたりするのか。なぜ知り合いでもないのになれなれしく話しかけてくるのか。向かいの家のおばあちゃんはなぜ毎日毎日家を覗きに来るのか・・・」





ふむ。前科を隠して生きていきたい彼女としては当たり前だろうが、キミは前科者でもないだろうになぜ共感出来るのかね。





「個人的に、人に干渉されたくないんだ・・・。なぜ知り合いでもないのに他人の生活が気になる?なぜ知り合いでもないのに話しかけてくる?なぜお酒の席を断ると嫌な顔をされる?そもそも、なぜみんながみんな宴席が好きだと決めつけてかかる?構わないでほしい。そおっとしておいてほしい。誰に迷惑をかけて生きているわけでもないのに、なぜ自分の話をする?そんなに気になるか?こちらは他人に興味なんて無い、関わりたくない。『昨日もお弁当買ってましたね』『昨日も同じシャツですよね』。なぜそんなに気になるのかが理解できない。観察されているのか?余計なお世話だ。平然と他人のバリアを乗り越えてくるデリカシーの無い人たちにストレスを覚える。距離を詰めて話し合える間柄でもないのに、無遠慮に他人を観察し、干渉し、ずりずりとテリトリーを乗り越えてくる。

 この心理状態を人にどう説明すればいいのか判らないけど、芭子の感じる不安、いらだち、悲しみに大変共感してしまった」






ひねくれておるなあ・・・。







「世の中の人は、みんながみんな同じ人種であると思わないでほしい。コミュニケーションを取りたくない人種を異物であるとか常識で考えられないとか思わないでほしい・・・」





話がわき道にそれておらぬか。





「・・・この本は、谷中に住む二人の、過去を隠しながらの日常を淡々と綴った内容。大きなドラマはないが、少しずつ再生していく様子を静かに描いていく。そして、乃南アサ氏はその心理状態の移り変わりや、季節感、そういった描写が抜群に上手い。読み終えて、この先の二人の再生と成長がその後どうなっていくのか、とても気になってしまう」





乃南アサ氏といえば、名作(お薦め!)『凍える牙』から始まる「音道貴子シリーズ」が有名だが。





「それも女性の心理描写が秀逸だよね。今回の物語もシリーズ化するそうなので、先の展開がちょっと楽しみだ。・・・ただ、出来れば二人の前科はばれないで進んでいってもらいたいなあ・・・。物語上いつかは誰かにばれてしまうんだろうけど・・・」





タイトルも意味深だな。





「陽の当たらない刑務所から出てきても、また陽のあたる場所を避けてひっそりと生きていかねばならないのだ・・・」






今回の作品はお薦めかね。





「ちょっと心に染みる短編を読んでみたい方にお薦めです。登場人物達に感情移入できるかどうかで、評価は分かれるとは思うけどね」





キミみたいには皆さんならないと思うぞ。

今回はちょっと読書感想文というないようではなかったが・・・。





「あ、乃南アサ氏の作品は、個人的にはかなり当たり外れがあると思いますので、ネットの口コミとかを参考に選ぶのも良いでしょう。あと、この作品、続編が書かれておるようですよ」




・・・とにかくもう少しだけでも大きな心を持て。小人よ!