Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『ねじの回転 -FEBRUARY MOMENT- 上・下』 恩田陸 を読んだ

 いらっしゃいませ。


 本格的に冬ですね・・・。





 彼は過日、恩田陸氏の小説、『ねじの回転 上・下』を読了したらしい。今回はそれについての感想とかをにょろっと書いてみたいらしい。

ちょっと読むのに手こずったか?





「まあ、少々文章量が多いというのもあったけど、その辺りはひとえに勉強不足故の・・・・」





ほう?




「ちょっと歴史物なんだよね・・・。どうもその取り扱っている時代自体が不勉強なので、どうも脳みそで咀嚼するのに時間がかかってしまった感じで・・・」










なんだそりゃ。

では、例によって内容に触れてみるかね。もちろんネタバレ注意報ということで。





「ジャンル的にはSFですね・・・。

 時間を遡行することが可能になった、二十一世紀の初頭。人類は、過去の過ちや、災害などの悲劇を、時間を遡って“無かったこと”にしようとすることを考えた。

 大災害を未然に防ぎ、世界大戦を無かったことにし、凶悪犯罪を事前に防いだ・・・。

 しかしながら、歴史を操作することの弊害と思われる奇病“HIDS”が世界的に蔓延するにあたり、人類は己の過ちに気がつく。何とかこの奇病“HIDS”の拡大を防がなければ人類に未来はない。

 国連は、干渉をした時代の要となる時間まで遡って、その事象を歴史(正史)通りに進行するように世界各地でプロジェクトをおこなう。プロジェクトの一環として、日本で選ばれた時代は、1936年(昭和11年)2月26日から29日までの4日間。昭和史で、“2.26事件”と呼ばれるクーデター事件を、正史通りに進行させようとしていた・・・。

 国連の技術者達は過去の日本に赴き、事件に関わった三人の陸軍軍人に協力を要請する。しかし、軍人達には軍人達なりの、それぞれの思想や思惑があり、正史を辿ることを単純には受け入れてはもらえなかった・・・」





おお。なんだか面白そうではないか。





「いわゆる“タイム・パラドックス”ものなんだけど、単純にそれだけではいかない、色々な要素を盛り込んで物語は作られている」





ふむ。






「未来人(つまり現代人)は、歴史の(またその土地の)極めて局地的な部分に干渉出来る。また、時間を操作している人間には、当時の時間の流れとは違う時間の流れがある。過去に干渉は出来るが、基本的に当時の協力者(今回の場合はクーデターを起こした軍人)に指示を与えることでしか干渉出来ない。また、余程大きな歴史的差異が発生したとコンピューターが認識したときのみ時間を一旦停止させ、トラブルがあった前の時間まで遡ることが出来る。逆に言えば、何か異変があっても、コンピューターが歴史的にたいした事象でないと判断すれば、少々歴史と食い違っても時間はそのまま進行し、本来とは若干異なった状態で“正史”として記録され、歴史はそのまま流れていく」





ふうむ。






「ただ、少しのひずみでも、バタフライエフェクトよろしく、色々なところに変化を及ぼしていくのだが・・・。その辺りはこの物語では局地的な干渉としてそれほど全世界に波及しないっぽい」





ふむ・・・。





「この物語のポイントとして、未来(現代)に流れている“実際の時間”の、決められた時間内にクーデターを発生させ、収束に向かわせねばならないということ。何度も時間遡行をおこなうと、そのたびに“過去の時間”はやり直すことが出来るが、“実際の時間”流れ続けているためどんどん時間が足りなくなっていってしまうのだ」





なるほど・・。

先ほどからガンガンにネタバレ的行動を起こしているが・・・。まあ、いいか。





「更にポイントとしては、この物語の舞台が、昭和史の中でも謎の多いクーデター事件として有名な2.26事件であるということ」





ほう。





「近代に起こったことの割には、色々と謎の多い事件らしく、全容が完全に解明されていないらしい。もしかしたら関係者がご存命である可能性まである事件を、かなり大胆に扱っているところはなかなかにチャレンジング、らしい。巻末の解説によると」






ほほう・・・。

というか、解説頼みか?!







「・・・とにかく、この辺りの歴史的知識が壊滅的に無かったのが、読むのが遅くなった原因の一つ」






ふむ。






「知識として知っているのは、陸軍の一部士官が、軍部になびかない政治家らを暗殺、軍部主導で政治をおこなうよう軍部に働きかけようとするが、結局は軍上層部はこれに同意せず、クーデター軍のリーダー達は銃殺となってしまう。しかしながら、軍の暴走に恐れをなした政治家達はこれ以降の軍の台頭を抑えられなくなってしまう。・・・とかってくらい。本当に上っ面の知識しかない」






まあ、リスザル脳のキミではその程度の知識しか無かろうな・・・。






「なので、“正しい歴史では、**は死んでいなかった”とか、“正しい歴史では△△はその場にいなかった”とか言う内容でも、なかなかぴんとこない。恐らく、昭和史、とくに“2.26事件”を詳しく知っている人ならかなりのめり込むことが出来る物語になっているのではないだろうかと」





ふむ。





「ただ、それほど知識がない人でも、色々と伏線の引かれた“タイム・パラドックス”の物語はかなり面白く、退屈することなくラストまで読み切れると思う」





ほう。






「ただ、個人的に二人ほど、どうも性格的に受け付けない登場人物がいて、どうもその二人のとった行動が今ひとつ納得が出来なかった。土壇場でその二人の行動がドラマを作ってしまうのだが、どうもなぜその行動をとったのかが今ひとつ理解出来なくてちょっと不満が残った」





なるほど・・・。





「物語的に、(ある意味)オーソドックスなSFなので、恩田氏にしてはちゃんとしたエンディングが用意されている。氏は時々とんでもない形で物語を投げっぱなしにするので、着地点の見えない読者はエンディングに到達した時点で路頭に迷ってしまうことがあるのだが、今作に関しては目に見えて安全な着地点があり、読み終わったときにも路頭に迷わずにすむ」






ふむ・・・。





「ちょっと時間が行きつ戻りつするので、すんなりとは進みませんが、意外にすらっと読める小説であると思います・・・」






なるほどねえ・・・。

で、どうかね。この作品はお勧めかね。







「日本の近代史、特に“2.26事件”あたりに興味を持ったことのある方は面白いのではないでしょうか。また、石原莞爾氏に興味がある人にも良いかも知れません。どきどきするSFを探している方にもお勧めです。高校生とかには今ひとつピンとこない内容であると思うので、読書感想文とかには向かないと思います。通勤時間の暇つぶしを探しているお父さん方には良いと思います」






なるほど。

概ね良かったようだな。



また何か面白い物を読んだら感想とかを書くのだぞ。


今回はこの辺りで終わる。