Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『黒と茶の幻想』(上・下) 恩田陸 を読んだ

 いらっしゃいませ。


 ・・・不器用ですから・・・。



 
 過日彼は、恩田陸氏の小説『黒と茶の幻想』(上・下)を読了したらしい。今回はそれについての感想とか何とかを書いてみたいそうだ。










「今回はちょっと感想とか難しいですね・・・」




ほう・・。




「決して面白く無いわけではないんだけど、明確に『ここが面白かった!』という部分は無くて・・・。そもそもそう言う物語じゃなくて・・」




ふむ・・・。




「なんだか、ずーっと、まだ薄明るい夕方の空のようなというか・・・」



なんだそりゃ。
まあ、まとめにくいようだが内容とかに触れてみるかね。




「そもそもジャンル分けも難しい。純文学というのでもないし・・・。

 学生時代からの同級生、彰彦、利枝子、蒔生、節子の4人は、同級生の送別会で久しぶりに顔を合わせる。大学の卒業から15年以上が過ぎ、それぞれが家庭を持っていたが、彰彦のふとした思いつきで、4人でY島へ旅行へ行くという計画を立てる。『美しい謎を解く旅』とテーマを持ったこの旅行で、4人それぞれが過去や現在の自分と向き合う旅となっていく・・。

 過去に、蒔生と利枝子は恋愛関係にあり、蒔生の一方的な別れ話から二人は別々の道を辿っていた。別れ話の原因は、利枝子の親友の憂理を蒔生が好きになってしまったからだという・・・。別れの後、憂理は忽然と利枝子の目の前から消えてしまう。利枝子は、実は蒔生が憂理を殺害し、何処かに埋めてしまったのではないかと疑っていた。

 憂理は彰彦の遠縁にあたり、彰彦も憂理の行方を気にとめていた。また、蒔生は現在離婚に向けて別居中であり、それを知った利枝子の心は揺れる。

 節子は憂理とはそれほど親しかったわけではないが、利枝子がなぜ彼女に惹かれたか、なぜ蒔生が利枝子とはタイプの異なった憂理を好きになったのか、気になっていた。しかも彼女は蒔生が憂理を殴る現場を目撃している。

 それぞれの心に『深い森』を抱きながら、Y島の雨に濡れた古代の森を4人は散策していく・・・。

 果たして4人の『過去の謎』はこの旅で明らかになっていくのだろうか・・・?」




随分と長いあらすじ紹介になったな。




「うーん、上手くまとめられなかった・・・」



例によって、ネタバレ注意報が発令されてしまうわけだな・・・。未読の方はご注意されたい。

・・この物語に登場する『憂理』というキャラクターは、『麦の海に沈む果実』に出ていた憂理なのか?




「そうでもあり、そうでないようでもあり・・・。登場人物の4人にとっては大学時代に交流があった同級生として、過去の人物として登場する」




扱い的には『人物』というより『キーワード』という感じなのかね。



「『存在』した事実はしっかり描かれている。ただ、物語での役割的に、感情の世界の人って感じになっている。常識のある現実世界との比較対象の象徴というか・・・」




良く分からないな・・・。




「この物語の登場人物のうち3人、利枝子、蒔生、彰彦は、感情や性格的に少々不安定な人物として描かれている。過去やゆがんだ性格に流されて行ってしまいそうな人たち・・・。その象徴として憂理の存在があるような気がする」




・・・ふむ・・。



「対して、登場人物の一人、節子は現実世界と他の3人を繋ぐ役割をしているような気がする。」



ほう。



「そんな4人が、現実世界を離れたような太古の森を、過去を振り返ったりしながらトレッキングしていく・・」




ふむ。



「今回の作品で繰り返し出てくる、テーマ的な思考なんだけど、彼らは現実世界に於ける自分のポジションというものを繰り返し自問する」




・・・ポジション?




「集団の中での立ち位置というか、役割というか、他人との距離感や位置関係だとか、自らの性格からくる対人関係に対してのあり方とか・・・」




・・・ふむ。




「例えばコミュニケーションをとるのが上手い、集団での立ち回りが上手い奴や、集団を観察しつつ距離をとってはいるが、決して孤立しているわけでもない、という立ち位置、であるとか、ある種の性格の人を好きになってしまう性格とか」




ふむふむ。




「彼らは深い森の中で、己の社会での接点や、他人との関係性、友人達との距離感、自らの心の中にある『深い森』を思いながら各人が、思索の中に沈んでいく」




ふむ。




「読み終わると、自分は他者とどのように関係性を築いてきただろうとか、自分は本質的にどんな性格なんだろうとかって思ってしまう。多分、読んだ人がそれぞれの年齢で、その時点での感想が違ってくるんじゃないかな。若い方や学生さんと、社会人の方とか感想が違うと思うし、年齢をもっと重ねられた方はさらにまた違った感想を持つのではないかと思う」



ふむふむ。




「自分はどんな友人を持ってきた?自分はクラスではどんな役回りだった?現在の伴侶との関係性は?自分の性格は人を受け入れられる?そんなことを考えてしまう」




・・・かなり非コミュのキミには相当に難しいテーマであるな。




「・・・まあ、どうやっても生きていくだけで精一杯なので・・」





現実を思い出して沈み込んでしまったようだな。

で、今回の作品はお勧め出来そうかね。





「まず、基本的に登場人物の一人称的な語りの物語、4つで構成されている。しかし、物語や情景を語るだけでなく過去の心情や、現在の悩みなど簡潔に表現しきれない語りも多く、文章を読み慣れていないと序盤からかなりまどろっこしい感じ。そのだらだらとした感じの表現が好きか嫌いかでお薦め度が変わるかな。」



ほう。




「良く、恩田作品は本好きが読む、なんてことを言うけれど、恩田氏の回りくどい(?)表現を読み進めていく楽しみを持っている人なら文句なくお薦めだと思う。逆に、簡潔な表現が、とか、分かりやすいエンターテインメントをという方にはお勧め出来ないかもね」



ふむ。




「純文学なんかを読み慣れている方は、逆にさらっと行きすぎて手応えを感じないかも知れないね・・・」




・・・なるほど。

少々切れ味が悪いな・・。




「単純に『オモシロカッタ!』っていう感じの本ではないからね・・」




まあ、また何かお薦めの本があれば紹介していきたまえよ。