読書感想文 『カタコンベ』 神山裕右 を読んだ
いらっしゃいませ。
いやあ、一年がたつのが早いですよね・・・。
え?今日も水ですが何か?
・・・スルメでもしがみますか?タウリンはたっぷりですよ。
過日彼は、神山裕右氏の小説、『カタコンベ』を読了したらしい。今回はそれについての感想とかをへねもねと書きたいそうだ。
どうであったかね。
「えーと、メジャーデビュー作なんですね、これが。なるほど・・・」
何を一人で納得しているのかね。
「・・・いや、第50回の江戸川乱歩賞受賞作品らしいんだけどね・・・」
ふむ。
なんだか含んだ言い方だな。
「元々この本を知ったのは、某B書店の前を歩いていたときに、やたらとその書店でこの『カタコンベ』という本が面陳列されていて」
ほう。
「新刊かなあ、それとも何か話題になった作品なのかなあと思って」
ふむ。
「で、その後にいつも行くJ書店に行って新刊コーナーを見ても、ロングセラーコーナーを見ても影も形もない」
ほう。
「店の検索サービスで調べてみると、在庫1冊で、しかもかなり前に文庫化されたものらしく、ごくごく普通の作品という扱い」
ほほう。
「後で知ったのだが、B書店のフェアで、“本屋さんの知ってる面白い本”という企画でこの本を推しているらしかった」
ほう。
「J書店では歯牙にもかかっていなかったが、B書店がプッシュする本ならと思い、今回この本を買ってみたわけだ」
なるほど。
・・・ということは、この神山裕右氏という作家さんを知って買ったわけではないわけだな。
「存じ上げませんでしたね・・・・。後で知ったんだけど、この作品で最年少で江戸川乱歩賞をこの作品で獲ったんだとか」
ほう。
「・・・乱歩賞ってこの程度で獲れるんですね・・」
え?
「まあ、その辺りは追々・・・」
・・・・まあ、では、内容とかに触れてみるかね。
もちろんネタバレ注意報発令ということで。
「江戸川乱歩賞の作品は、純粋なミステリーだけではなく、かなり色々なジャンルの作品が選考対象となるみたいですね。この『カタコンベ』はかなりサスペンスよりの内容でしたね・・・。
ケイブダイバーの東馬亮(とうま りょう)は、5年前、自らのミスで一緒に洞窟湖に潜ったケイビング仲間の水無月健一郎を死に追いやってしまう。年上のケイブ仲間の水無月を東馬は慕っていたが、その死を負い目に感じて生きてきた。水無月の死後に、遺品を届けに行ったが、彼の娘に受け取ってもらえなかったことも、東馬の心に暗い影を落としていた。
プロのケイブダイバーとして研鑽を積む今でも、過去を引きずって生きている。そんなとき、5年前の事故現場近くで、新たに大規模な洞窟が発見され、その洞窟の内部調査がおこなわれるという。東馬にもスタッフのダイバーとして参加して欲しいと依頼が来る。東馬は、ある決意をもって、その調査に参加することを決めた・・・。
また、奇しくもその調査団には、大学院生として成長した、水無月健一郎の娘、弥生も動物の調査を担当するとして参加することになっていたのだ・・・」
なんだか分かりやすい感じだな。
「まあ、導入はこんな感じです。ストーリー的には、おきまりの殺人有り、閉鎖空間独特の閉じ込められ有りといった感じです」
なんだそりゃ。
「この本を買った理由に一つは、B書店が推しているから、で、もう一つが“カタコンベ”という地下墓地を表す言葉がとても好きだからというのがあって」
ほう。
「昔々から有る地下墓地の迷宮って、とても魅力的じゃないですか?」
ふうむ。
「まあ、そんなのをちょっと期待して買ってみたりしたんだけど、そういうゴシック・ホラーっぽい内容は微塵もなかった・・・」
あらあら。
「それでも文庫の裏のあらすじを見て、魅力的だと思ったんだ」
ほう。
「ケイブダイバーですよ、主人公が。洞窟内の湖とか、海底洞窟とかを専門に潜る人ですよ。よほど間違いがなければそれだけでサスペンスっぽいじゃないですか」
ほほう。
「水中の埃が舞い上がっただけで、前後左右どころか、上下の感覚すらなくなる洞窟内での潜水。いくら浮上しても閉鎖空間で水面がないので、ボンベの酸素が切れることは即、死を意味するという、舞台が既にドラマチックなんですよ」
なるほど。
「の、はずなんですけどねえ・・・」
あれ?
「まず、物語は、始まった瞬間から分かりやすい伏線をバシバシ引くところから始まる。端的に言うと、ひたすら引いた伏線を後半で回収していくだけで終わっていってしまう」
ふむ・・・。
「特にどんでん返しがあるわけでなく、分かりやすい伏線をひたすらたぐり寄せていって、そのままエンディングを迎えてしまう」
あら・・・。
「ネタバレになってしまうが、正直、主人公がプロのケイブダイバーである必然性が薄い気がする」
ほう。
「確かに地底湖に潜るところがあるが、それが物語のメインではない。メインは結局洞窟内を歩き回るのだ」
ふむ・・・。
「これなら、“ケイブダイビングの専門家”でなくて、“潜水もそこそここなすケイバー”のほうがしっくり来る。潜水がメインではなく、這いずり回る方がメインなのだから」
ふうむ・・。
「どうせダイバーを主人公にするなら、そこに必然性がほしかった。酸素の尽きる恐怖であるとか、埃の恐怖であるとか、プロのダイバーならではの話にならなかったのだろうかと思う」
ふむ・・。
「一応のサスペンス的要素として、落盤の恐怖とか、暗闇の恐怖とか浸水の恐怖とかが描写されているのだが、どれも一様に怖くない。なぜ?それが文章力という物か?」
ふむう。
「あと、どうせ洞窟の話なら、更に“洞窟の恐怖”がほしかったね。例えば、酸欠であるとかガスの恐れであるとかその辺りの恐怖ってあると思うんだけど、登場人物は洞窟内をガンガン進む。どうもヒリヒリするような緊迫感がない」
なるほど・・・。
ガンガンにネタバレしているような気がするが、先を進めたまえ。
「正直なところ、あまりに伏線が分かりやすくて、“犯人”や“死にキャラ”が結構早い段階で分かってくる。本当にそれで良いのかと思ってしまう伏線のひき方だが、本当にそのままで終わってしまった」
ううむ。
「更にネタバレ覚悟で書いてしまうが、物語に犬が出てくるのだが、この犬の描写が異常におかしい」
・・・ガンガンにネタバレだが・・。まあ良いか・・。
「この犬は、10年前の行方不明事件(上記“内容”で書いた五年前の事故ではない)で、洞窟に半ば閉じ込められたようになってしまうのだが、大変に活発である」
ふむ。
「少なくとも10歳以上の犬。老犬である。とっくに寿命が来てもおかしくないような年齢なのに、やたらと元気である。しかも洞窟の中。10年間も何を食べていたのか?文中ではコウモリを食べていたっぽい表現になっているが、犬に捕まってしまうような間抜けなコウモリは恐らく存在しない。犬は飛べないし、天井に張り付いたコウモリにどれだけジャンプしても届かないだろう。・・・しかも、その洞窟のほとんどが、大雨が降ると水没してしまうという設定なのだ。仮に食料を得ることが出来ても、どう考えても水没には勝てないと思うのだが」
ううむ。
「まあ、水没に関しては、入り口付近は水没しないみたいだし、水没しない場所も有りますみたいな説明になってしまうのだろうけど、あまりに説得力が薄い。物語のメインの恐怖が、“洞窟が水没するまでの時間との戦い”であるのに、犬は水没も平気であるなんて、全くもって本末転倒である」
むう。
「さらに、どうせなら水没させちゃえば良かったね、洞窟。そのほうが主人公の職業が“プロのケイブダイバー”であるという設定が生きてくる。というか設定が死んだまま終わってるわけなんだが」
むむう。
「あと、どうもキャラが薄い。なんだかビジュアルが伴わないとキャラの特徴が出ない感じ。文章だけでは描き(書き)分けが出来ていないというか」
ふむ。
「特に、主人公と、最後まで主人公と行動を共にする男のキャラが被りまくり。同じ様なキャラを二人も出してどうしたいのかが分からない」
ふむう。
「この“主人公と行動を最後まで共にする男”が、そのキャラ設定なら正直早い段階で殺すべき。主役が二人いるようで、ラストが近づくにつれてキャラ被りが顕著になってくる」
むむむ。
「えーと、まだダメを出した方が良いですか?」
まだ重箱の隅をつつける隙があるのか。
「またネタバレになりますが、主人公、自分でダイナマイトを作ります」
おお。
「正直そんなキャラは『冒険野郎マクガイバー』以来ですが、ダイナマイト、そんなに簡単にできません!!断言します!」
ほう。
「爆発物自体は結構簡単にできるらしいけど、雷管は素人が作る事が出来るものではないらしい」
ほほう。
「かの有名な、ピース缶爆弾の人が西原理恵子氏の漫画で語っていたので間違いないだろう。プロ(?)の極左の人が自分で作っちゃダメという物をそんなに簡単に都合良く作られても困る!プロの極左の人でも、雷管だけは採石場や工事現場に盗みに行くそうだ。サイバラの漫画、為になるなあ・・」
西原理恵子氏の漫画からの知識とは・・・。
「タイトルの魅力的な言葉、“カタコンベ”は、この作品では“洞窟という物は死体の上に出来上がったもので、死を内包する地下墓地のような物だ”という抽象的な意味合いで扱われているんだけれど、どうせなら本当に舞台にしたら良かったと思うよ、地下墓地。地下迷宮として。そうしたら物語に彩りが添えられるんじゃないかと思うんだけどねえ・・」
それは主観を入れすぎではないかね・・・。
で、どうかね。この作品はお勧め出来る本かね。
「まあ、暇つぶしには。くれぐれも第50回・江戸川乱歩賞受賞作品として読まないことですね。賞レースで受賞した作品としてみてしまうと、今回の記事のような濃い色眼鏡で見てしまうことになると思います。あくまで新人作家のデビュー作であるとして読むべきでしょうね、きっと」
酷評であるな。
「“リアル”も“リアリティ”も、さらには“必然”すらもないのでは仕方がないと思いますよ・・・」
ふうむ。
「あと、どうでも良いですが、B書店は本気でこれを“本屋さんの知っている面白い本”として推しているわけなのだろうか?他に選択肢はあったと思うのだが・・・。もし本気でこれを推しているなら、B書店、“面白い”の基準が低すぎます」
なんだか言いたい放題の記事であったな。
これで良いのだろうか?あまりの上から目線でちょっとアレな感じだが・・・。
まあ、今回はこの辺りで終わる。